青空を目指して2

どこまでも続く日々日常。ゲーム・音楽好きのおっさんの半生。日々日常とちょっとだけ思ったことの日記。

「赤い化け物」

さっきまで漆黒だった空が少しずつ色を持ち始める。
ひんやりとした空気にもすっかり慣れ、ただどんどん鮮やかになっていくその空を、入学したときに親にねだって買ってもらった自慢のプジョーのマウンテンバイク(シルバー)にまたがり少し多めに車体を傾け地面に片足をしっかりとすえて、首だけを空に向けてじっと見つめている。
その目は実にしっかりと見開かれており、こんな時間だというのに眠気のひとつも感じさせず、わずかに昇り始めた朝日に照らされきらきらと輝いている。
今時古めかしさを覚える黒の詰襟の学生服で身を固め、第一ボタンははずしている。
背中の赤いリュックサックが黒の学生服のせいでいやに浮いて見える。
「よし」と呟くと、その言葉は白い湯気になりすでにうす青い空に消えてゆく。
おもむろに赤いリュックサックから片手を抜き、さらにそのまま勢いをつけ赤く大きな弧を描き後ろから前にリュックサックが華麗に宙を舞う。
前まできたところで両手でしっかりとそれを捕まえ、ちょうど頂上に仲良くきれいに並んだジッパーを両側に一気に開く。
赤いリュックはまるで生き物のように黒くぱっくり口を空けた。
何の躊躇もなく右手をその生き物の中に突っ込み内臓をかき混ぜる。
くる途中にローソンで買ったメロンパンとペットボトル500Mlのポカリスエット
時々シャーペンが手をつつく。ばさばさとノートや教科書も邪魔をする。
ブラックジャックのような華麗なオペはできない。10秒ぐらい生き物の内臓を触診した挙句、やっと病巣部を発見しそれを摘出することに成功した。
手にはかわいらしい動物イラストの入った封筒が握られていた。
あれだけ荒っぽいオペをしたにもかかわらずその封筒はちゃんと角が立っており、しわのひとつも感じさせない。
それもそのはず。この封筒は特別ななのだ。
昨日の夜3:35分までこの封筒と格闘していたのだ。
正確にはこの封筒の中身と。
この封筒の存在をしっかり確認し、今度は丁寧にそれを赤い生き物のおなかの中に配置しなおしジッパーを元にもどす。
観念した赤い生き物は再び背中の定位置でおとなしくなる。
「今日こそは・・・」ポツリと呟きながら、目を閉じる。
しばらく時間でも停止したのかと思わせるぐらいの静寂が空間を包む。
永遠とも思える数秒の後、目をかっと見開くと同時に大きめなしっかりとした声で「勝つ!」と呟く。
斜めだったシルバーも本来あるべき姿に戻どされ、山の高台の上から颯爽と降りてゆく。
シルバーと赤い化け物と黒い詰襟とかわいい封筒の戦いはたった今幕を切って落とされた。