彼は最後の力を振り絞り立ち上がった。
そして周りを見回した。
なぜだろう。
なぜだろう。
そこに広がっていた氷の世界は妙に懐かしい雰囲気を感じる。
彼はヨロヨロ歩き、あたりを見回した。
そして気づいた。
ここは故郷。
そうに違いない。
この場所もこの場所も変化は有れど記憶にあった景色だった。
彼は流されるうちに無意識に自分の故郷にたどり着いていたのだ。
ヨロヨロの彼は自然にあの場所へ向かっていた。
二人が出会ったあの場所へ。
その場所は不思議と昔のままの趣を保っていた。
懐かしさで心は満たされ、久しぶりに悲しみが胸にわき出てきた。
涙を流しながら、彼は思った。
ここで終わろう。
そう思い彼は座り、静かに目を閉じた。
どさ、どさっ!
目を閉じた彼の周りで音がした。
続いて声がする。若い張りのある声だ。
「ここは立ち入り禁止の場所ですよ。わかってるでしょう?」
目を開けると、大きな翼を蓄えた、若いペンギンたちが彼を囲み睨んでいた。
彼は何も応えることはできなかった。
もう動く気力すら無かった。
状況が把握できず、彼らを眺めることしかできなかった。
若いペンギンたちは彼の腕を抱え、そこから彼を連れだし
自分たちの集落へ彼を連れて行った。
若いペンギンたちからしても彼の羽は立派だった。
自分たち若い飛びペンギンからしてもこんな立派な羽をもつ者はいなかったのだ。
しかし弱ったそのペンギンをほってはおけず、自分の家へと彼を連れて行った。
彼をベッドに寝かせ、とれたての魚を与えておいた。