狩りから帰ってきた彼の父親と母親がその来客に気が付いた。
2匹は彼を見るなり、何かに気が付いた。
「あなたは、あのペンギンですよね?」
「最初に空を飛んだあのペンギン…。」
そう聞かれた彼は二人をじっと見た。
2匹が昔、彼をバカにしてみていたペンギンたちの中にいたことを思い出した。
そしてその2匹はいろんなことを教えてくれた。
彼がこの地から飛び去った後のこと。
それを見ていたまだ子供ペンギンたちがいたこと。
子供ペンギンたちは自分たちも空を飛ぶんだと考えたこと。
彼がホントに飛び立った後、すぐに子供ペンギンたちはトレーニングを始めたこと。
子供ペンギンたちが大人の体になったころ、彼らは空を舞うことができるようになっていたこと。
バカにしていたペンギンたちもその事実を認めるしかなかったこと。
そのうちその集落の若いペンギンたちの多くは空を飛べるようになった。
若いペンギンたちの間に生まれた子供たちは子供のころから飛ぶことが可能だった。
そうして、この集落のペンギンは飛びペンギンとなった。
飛びペンギンたちの中で、最初のペンギンの飛び立った場所が聖地となっていた。
彼は若いペンギンたちに神様のようにもてはやされた。
年を取ったペンギンたちも彼に謝罪の言葉を並べ立てた。
しかしもう彼にとってはそんなことはどうでもよかった。
もう彼にはそんな過去の問題もどうでもよかったし、
神様になりたいとも思っていなかった。
自分はただあの場所へ行きたいだけだった。
数日が過ぎた後彼はその家から姿を消した。
静かな夜、彼は家をそっと抜け出し、あの場所へ戻ったのだ。
少し体力が回復していた彼はその場所にたどり着いた。
若いペンギンたちが彼の姿が消えたことに気づき、彼を探した。
若いペンギンたちにもわかっていた。
彼が向かった場所はあそこしかない。
若いペンギンたちがその場所にたどり着いたとき、
その場所にいた彼に、若いペンギンたちは思わず目を奪われた。
ぼろぼろだが大きく力強い翼を大きく広げている彼の姿を。
月光に照らされ輝く彼の姿に神々しさすら感じ、ただ彼を眺めるしかできなかった。
彼はその翼を力強く羽ばたかせ、月に向かって飛びあがった。
月の光に照らされその光に向かって真っすぐ真っすぐ飛びあがり、
やがて彼はその光にかき消されるように見えなくなった。
それからまた、何度かの冬が過ぎた。
あの後、飛びペンギンたちの中でで彼の姿を見たものは誰もいなかった。
探しても探してもどこにも見つからなかった。
やがて彼の事は飛びペンギンたちのの信仰の中にのみ生き、忘れ去られていった。